大阪地方裁判所 昭和41年(ワ)2558号 決定 1966年9月21日
原告
株式会社幸福相互銀行
被告兼当事者参加人
松井建設株式会社
被告
赤石不動産株式会社
外七名
主文
本件各移送の申立を却下する。
理由
一被告等(被告兼当事者参加人を除く)は、「本件を東京地方裁判所へ移送する。」との裁判を求め、その理由として述べるところは、これを一括して要約摘示すれば、「被告等の普通裁判籍たる住所或いは本店所在地は東京都或いは横浜市に存し、且つ係争物件たる本件不動産もまた東京都内に所在するから、大阪地方裁判所には本件の管轄権がない。仮に原告と被告赤石不動産株式会社との間に、本件について大阪地方裁判所を管轄裁判所とする合意が成立しているとしても、右合意は右赤石不動産を除くその余の被告等を拘束する効力を有しないことは勿論、かかる合意による管轄裁判所が、右合意に関与しない者について管轄権を生ずるに至る民訴法上の根拠がないから、いずれにしても民訴法三〇条により、本件を管轄裁判所たる東京地方裁判所に移送すべきである。仮に、大阪地方裁判所に管轄権が生ずるとしても、被告等本人ならびに証人となるべき関係者は、いずれも東京近辺に在住するのであつて、実質的な訴訟経済等から考えて、本件を同法三一条により東京地方裁判所へ移送すべきである。」というにある。
二ところで、原告の訴状によると、原告は、被告赤石不動産との間に締結した代物弁済予約を完結したことにより、東京都内所在の本件不動産の所有権を取得したとして、同被告に対し、これが仮登記に基づく所有権移転本登記手続を求めるとともに、原告に対抗し得ない本件不動産上の登記権利者たる参加人を含む被告六名に対し、右本登記手続についての承諾を求め、かつ本件不動産占有者たる被告五名に対し、その明渡しを求め本件については、前記代物弁済予約の際、本件についての管轄裁判所を当裁判所と定める旨の合意が成立していると主張しており、又、参加訴状によると、参加人は、本件訴訟が提起された後、原告から本件不動産の所有権を譲り受けたことを理由に原告に対し本件不動産所有権が参加人にあることの確認を求めるほか、その余の被告等に対しては、原告の請求と同旨の請求をしていることが認められる。
三そこで先ず本件両訴訟につき当裁判所が管轄権を有するか否かにつき判断するに、証人谷川晴彦の証言により真正に成立したと認められる甲第一号証の二(根抵当権設定契約証書)によれば、原告と被告赤石不動産との間に、原告の本店所在地を管轄する当裁判所を前示代物弁済予約に関する訴訟についての管轄裁判所と定める旨の合意が成立している事実が認められ、右合意は、特別の事情の認められない本件においては、専属管轄の合意ではないと解すべきである。ところで民訴法二一条は一の訴を以て数個の請求を為す場合に、一条ないし一九条の規定により、一の請求につき管轄権を有する裁判所は他の請求についても管轄権を有する旨規定しているところ管轄権を有する根拠が同条掲記の各条項による場合は勿論、応訴管轄や管轄の合意による場合をも含むと解すべく、右規定の文言並びに旧民訴法の規定が改正され右規定が設けられるに至つた経緯等を考え合わせると、同条が適用される場合としては単に同一被告に向けられた請求の併合(客観的併合)の場合のみに限られるものではなく、複数の被告に対する請求の併合(主観的併合)の場合をも含むと解するのが相当であるが、後者の場合に同条の適用を無制限に認めるときは、被告の権利防衛上著しく不利益を与える場合なしとしないから、これについては被告の右利益と訴訟経済とを調和せしめる趣旨においてこれを二分し、同法五九条前段にあたる場合には併合を許すべく、同条後段にあたる場合にはこれを許すべきものではないと解すべきである。これを本件について見るに、原告の被告赤石不動産に対する請求と他の一〇名の被告に対するそれとは、いずれも原告が本件不動産の上に取得した所有権に基きその物権的請求権の行使としてなす請求であることは訴状の記載により明らかであつて(この点参加人の被告等に対する請求も同様であることは参加訴状により明らかである。)同法五九条前段にいう同一の事実上及び法律上の原因に基くという場合に当るものであつて、被告相互間に何等の牽連関係のない全く別個の請求を併合せんとしているものではないから、原告と被告赤石不動産との間の請求について合意管轄権を有する当裁判所が、同被告を除くその余の被告等に対する請求についても、民訴法二一条によりその管轄権を有することは、前説示の理由によりいうまでもなく、(なお印紙を貼付していないが、被告藤田守は原告の請求を認諾する旨の答弁書を提出している。)右訴訟が当裁判所にけいぞくすることを前提としてなされた当事者参加事件についても当裁判所がその管轄権を有することは多言を要しないところであるから、当裁判所に管轄権がないことを理由とする本件移送の申立は失当である。
四次に裁量移送の申立につき検討を加える。本件訴状によれば被告等はいずれも東京都内或いは横浜市に居住し、係争不動産も東京都内に所在することが認められるが、証人谷川晴彦の証言によるとと、本件代物弁済予約及びこれと同時に締結された各契約は、すべて原告の本店においてなされたこと、従つて、原告が提出、援用することが予想される書証ならびに重要な証人等が大阪市に存することが窺われ、これに対し、被告等の大半が、未だ本案に関する答弁をしていない現在如何なる事実が争点になるかは必ずしも明白でないけれども被告一一名中約半数に当たる五名の被告については、その請求が建物明渡しを求めるものである以上占有権限の有無等について主張立証がなされることが予想されるところ、これによる被告等の不都合は、集中審理その他訴訟指揮によつて除去されることが十分可能であるから、他に本件を東京地方裁判所へ移送する必要があることについて、これを認めるに足る資料の提出のない現段階においては、被告等の裁量移送の申立もまた理由がない。
五よつて本件移送の申立を却下すべく主文のとおり決定する。(下出義明 上田耕生 田中宏)